6.純と香 コオルリンゴ

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「いつか、子供ができたら『清』という名前にするわ」 熱く交わり合った果てに、香は腕の中でそう言った。微睡んでいるのかと思ったが、はっきりとした声だった。 「男の子だったら『きよし』。女の子だったら『さや』と読むの。清らかな子になってほしい。私と真逆の」 本当の意味で一線を越え、ついにあんなに嫌がっていた不健全な関係に陥った。正真正銘の不倫に堕ちた。 心の中は一色ではない。苦々しいものと清々とした想いが、互いを食ってしまおうと戦いながら共存している。 「お子さんはできた?」 ストレートな質問に私は答えに窮した。 「黙ったら、認めたのと同じじゃない」 思いの他優しい声で胸が詰まる。その優しさが偽りと分かっていたが、嘘もつけず甘えた。 徹底的に嘘をつくこともできない、ずるい人間だ、私は。 「跡取りが必要なんだ。それだけだよ」 「そっか……」 性別は男の子だとすでに分かっている。 名前も決まっている、父が決めていた。 悟――『もの分かりがよい、さとりがよい』という意味だ。 散々苦労かけさせられた、自分の立場というものが分かっていない、悟りが悪い息子への当てつけだろう。 父は男の子2人と言っていたが、もうおつとめはいいだろう。 香のことがなかったとしても、春を抱くのはもう勘弁してくれという気持ちだった。 もう、香以外の女に触れたくない。
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