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「瞳ちゃんと話したのか」
「納得はしてもらえなかったけど」
「当たり前だろ。永山さんには私から話すからお前はまだ何も言うな」
「それは、ぜんぜん筋が通ってないだろ? この後おじさんに連絡して会おうと思ってたんだけど」
「いいから言うことを聞け。ビジネスにはタイミングや駆け引きがある。お前が殴られるのはその後だ」
「……分かった」
父は何故急に軟化した?
兄の件を後悔しているのだろうか?
それとも自分が断ち切れなかった負の連鎖を断ち切ろうとようやく思ったのか?
まぁ、なんだっていいさ。
「ありがと。絶対連れてくるから」
安堵の一呼吸をして全身に力が漲って父に背を向けた第一歩。
伊東香が『夫と娘を愛してる』と言ったその後の2人の会話が、ふと蘇る。
――子供は元気なのか?
――元気。でもあなたのせいでちょっとした対人恐怖症です
――あれは……悪かったと思ってるけど……
――カウンセリングで記憶、消してもらった
――そんなことが出来るのか?
――催眠療法は欧米では割とメジャーな手法だわ。トランス状態に導いて潜在意識にこう語りかけるの。”誘拐犯なんていなかった……”ってね
父が彼女の娘を『誘拐』しようとしたせいでその子が『ちょっとした対人恐怖症』になって、『カウンセリングで記憶を消してもらった』からどうのこうの……という内容。
あの時俺は、伊東香の娘は父の子なんじゃないのか……と直感で思った。
しかしそうだとするなら、あの女の態度や発言が噛み合っていなかった気もする。
「父さん、あのさ」
父が一方的に疑っていただけなのか?
「ん?」
異母兄弟……もしも本当ならば、今後どんな不都合が起こるだろう。
事実を週刊誌に売るなどと恐喝されるリスク、乗っ取り、遺産相続……まぁ今の今聞く事でもないか。
知るべきことは必ず知る日が来るだろう。
「いや、なんでもないよ」
俺が今すべきはただひとつ、サヤを探すこと。
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