2.リョウとサヤ

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日々何かと忙しかったが、時間を見つけては三重に出かけた。 ノラダイバーは金さえ払えばショップ開催の日帰りツアーや遠征やらに参加できる。今日、相棒(バディ)になったのはピンクのウエットスーツの若くて可愛らしい女の子だった。 「こんにちは~マツヤマです。よろしくお願いします」 「サカイです。三重の方ですか?」 「はい、サカイさんもですか?」 「いえ、今出張で三重に来ていまして。ダイビングが好きなんで」 「そうなんですねー! すごーい!」 例えばこの子が何らかの理由で海の中ですっからかんになったとして、俺の空気ももうギリギリだったとして、この子に俺の空気をあげられるだろうか? ……ないない、ムリムリ。 この子に命なんてかけられないし、何かを教えてあげたいとも思わない。 潜っても、何かが足りない。大好きな海なのに寂しい。 「あ、そういえばサヤちゃんて元気ですか?」 「サヤちゃん……ですか?」 「ここのショップ利用してたはずなんですけど。オープンウォーターで黒髪で絵がへたくそで」 「んー。サヤちゃん……私は知らないですね」 「そうですか」 サヤを探すキーワードはダイビングショップとケータイショップだけだ。沖縄から帰ったらすぐにライセンスを取ると言っていたのでダイビングショップから手をつけたが、複数のショップを利用してトレーナーや利用者に探りを入れてもそれらしき子は見つからない。 サヤは本当はダイビングがつまらなかったのだろうか? 楽しかったけど、あえてライセンスを取るほどでもないと思ったのだろうか? だとしたら俺が海の魅力を伝えきれなかったということになる。
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