2.リョウとサヤ

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「……ヒトミ、ごめん。急にあんな事言ってしまって、本当にごめん」 ぱっと持ち上げた顔は、思いの他明るかった。 「リョウ、頑張ってね。リョウが幸せだったらそれでいいかもって、半年経ってやっと思えて来たんだ」 へへへ、といつものリスっぽい可愛らしい笑顔。 「私も幸せになりたいし、もっと視野を広げるよ」 釣られてこちらも少しだけ笑顔になる。 「じゃあまたね! 仕事頑張って!」 「うん。またな」 「クビになるなよー!」 「バーカ」 ヒトミの本音の本音までは分かりかねる。額面通り受け取って、ヒトミがこのまま破談を受け入れてくれたとしても、結婚がビジネス戦略である以上、永山のおじさんが納得しない可能性も大いにある。 父は水面下で動いてくれているようだが……もう半年経った。一体いつになったら完遂するのだろうか? 早く、公的に、婚約者という立場をクリアしたい。 アキラからもさんざん口酸っぱく忠告を受けた。どうしても諦められなくてどうしても口説きたいならば、せめて身辺がクリアになってからやれ、と。 確かにその通りだ。グレーな立場の人間に口説かれたって困るだけだ。 エレベーターに乗って8階まで行くと部長と出くわした。 「おはようございます」 「大変な役を引き受けてくれてありがとう。皆にお披露目したら後はもう好きなようにやっちゃって」 他部署との兼任、名ばかり部長なだけあってかなり適当だ。 「はい」 「じゃ、行きますかー」 部長がドアを開ける。 深呼吸をして、ダイヨンに踏み入る――。
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