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逆襲を怖がってるサヤに声をかける。
「なんかあったらすぐに言って」
「……うん」
腰に腕を回し歩き始める。サヤは嬉しそうに微笑んだ。くすぶっていた炎がまた勢いをつけはじめ、抱く腕の力が自然に強くなる。
体同士がぴったりくっついて歩きにくくなる。
「さーちゃん一番人気だったね」
「え? そう?」
「トイレで男どもがエロいこと話してた」
男どもの妄想を思い出してムカムカする。サヤはきっと奴らの脳内で一回は抱かれてしまっただろう。都合のいいように……。そう思うと……。
「どんな?」
「言えるわけないだろそんなのっ。たとえ妄想でもサヤが他の男にどうこうされるの嫌だよ」
腰に回していた腕を解き、細い手首を掴むと駅とは反対方向に向かった。
「どこ行くの? 帰らないの?」
質問には答えずずんずん突き進んで、たどり着いた先はシティホテル。
部屋からスカイツリーが見える、シティホテルの中でもラグジュアリーなホテルだ。
「飲むの?」
「泊まろ」
「ええっ!?」
電車に乗れば家に帰れるのに、明日も仕事なのに、宿泊? サヤの顔に疑問が浮かぶ。
「朝早く起きて帰ろ」
短く言って会話を打ち切る。空いてる中で一番良い部屋を取ってカードキーを受け取る。エレベータの中で不安げに俺の表情を伺っている。
「ごめんね、断ってすぐ帰ってこればよかったよね……」
シュンとしてしまっている。サヤは自分を責めている。これはいけない。
「そんなんじゃないよ。怒ってるとかじゃないよ、全然。ただ……」
心臓をかきむしりたくなる。
「情けないくらいに、独占欲を抑えられないんだよ」
部屋に入ると、わざと開けてあるカーテンからイルミネーションされたスカイツリーの正面が見えた。宝石をちりばめたみたいな夜景も見えた。
そんなものはどうだっていい。サヤに見せてあげる余裕もない。
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