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電話が鳴った。画面を見ると父だった。ほんの少しの希望を胸に応答する。
「もしもし?」
「永山さんが折れた」
「え。まじ!?」
たった一言で。たったひとつの事実で。天高く引き上げられたかのように、一気に気持ちが昂った。鼓膜が破れそうな大声で咆哮したくなった。
「最後は瞳ちゃんと明君の熱意に負けたようだ。悪いが、忙しいので今日は報告までだ」
「あーっ。近いうち彼女に会わせるからよろしく!」
「そうか。楽しみにしてる」
切った後に思い出した。例の件どうなった? まぁいいや。はっきり言って今の俺にとって異母兄弟なんてどうでもいい。
今はただ、サヤと結ばれたい。
いちはやく指輪を用意してプロポーズしよう――決意し、早速次の日ハリーウィンストンのショップに行きエンゲージリングをチェックする。
どうせよく分からないんだから色々ショップを回ってネットを見てじっくり検討して買おうかと思っていたが、一目見て妙に惹かれるリングがあった。
「これ、手に取って見てもいいですか?」
店員がショーケースの中からそれを取り出す。サイドのアームに敷き詰められたダイヤとセンターのダイヤモンドがこの上ないくらいに美しい輝きを放っている。サヤの綺麗な指によく映えるだろう。
直感が大事だと俺は知っている。
車が買える値段だった。が、一生の愛を申し込むにふさわしい。
同居してる家に置いておくとバレかねないので実家の金庫に入れておいた。
母に『もうすぐいい報告が出来るから』と話すと、いたく喜んでいた。
ようやく歯車が良い方向に回り出したと思った。
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