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「どうしたの。何があった」
サヤは俯いて小さく首を振る。どうやら俺には言いたくないらしい。サヤにはサヤの付き合いや関係がある。彼氏だからって言いたくないことを無理に話させる必要はないとは思う。
明らかにおかしいのに理由すらも知れないなんて。
「俺は絶対、何があってもサヤの味方だから。苦しいことや辛いことがあったらなんとかしたいし、問題が起こったら一緒に解決したい。サヤをひとりにさせたくない。それだけは覚えててね」
何があっても味方だということを解き伝える。
「……リョウ……私……ね……」
何かを言いかけるが躊躇いがあるようで、何度も喉元まででかかっては引っ込んでいく。俺は手を握って続きをひたすら待った。話し出すまでに相当の時間を要した。気づけば日付をまたいでいた。
「……私、真中さんとしてない……っ! 」
ようやく出て来た言葉に頭が真っ白になる。
真中――?
「酔ってたって寝てたってなんだって絶対出来ない! 体が拒否する! リョウ以外を違和感なく受け入れるわけない! 本当に……! 信じて!……でも、動画が……!」
堰を切ったように告白し泣き崩れてしまったサヤを抱きしめる。
動画、だと? サヤの口ぶりからして、それがどういう種類の動画だったかが分かる。
なんだ、どういうことだ? 何が起こってる?
「大丈夫。何があっても味方だって言っただろ。今日、何があったのか話して」
サヤは涙でぐしゃぐしゃになりながらも一部始終を話してくれた。
商談を終えた帰り、真中さんに呼び止められカフェに入った。そこであの酔い潰れたトイレで一方的にされている動画を見させられた。ばら撒かれたくないなら俺と別れて自分と付き合えと言われた。また、真中さんは自分を姉と重ねているようだ、と。
人生で初めて、人に対して殺意というものを抱いた。
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