44091人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし問題は。
「その編集動画がサヤに見えるってことは大問題だから、なんとかしないといけないな」
「どうしたらいいの!? みんなに送られたりしたら生きていけない!」
「動画は切り札でもあり破滅の証拠でもあるから向こうもそうそう簡単に切れないよ。ただ現状、脅されたっていう確たる証拠がないのが痛いな」
「会話だけじゃあ、通報してもまともに聞いてもらえないよね……」
「奴がその画像や動画をサヤに送ったりしていたら即突き出せたんだけどな。相手もさすがにバカじゃないな」
真中は女というスケープゴートを用意し、自身は証拠を残さないように立ち振る舞っている。今の今警察に相談したところで、そんなことは言っていないで逃げられるどころか、名誉棄損で訴えるだのと言われるのが関の山だろう。
姑息さと卑劣さにはらわたが煮えくり返る。
「じゃあ、どうしたら……!」
サヤはまた泣きだしてしまった。
「アテがあるから俺に任せて」
もうなりふり構っていられない。
目には目を、犯罪には犯罪を――。
*
新宿2丁目の雑居ビルの5階にその店はある。
扉を開けるといささか野太い『いらっしゃいませぇ』という声と、テクノミュージックに迎え入れられる。もくもくと渦巻いている煙を手で払いながら空いてるカウンターに座る。目の前に立っている女の子に適当な酒を頼む。
向こうでカラオケを歌ってる人物に軽く手を振ると、ドレスの裾を両手で持ち上げて近寄って来た。
「んまっ! どうしたのぉ!? お坊ちゃんがこんなとこまできてぇ!」
「久しぶり。お願いがあって来た」
「なぁに?」
中山は大学の同級生だ。昔は精悍なラガーマンだったが今ではすっかり女性だった。
「ある人物達のPCやスマホやクラウドを操作してほしい」
「遠隔乗っ取りね。お偉いさんじゃないわよねぇ?」
「ただの一般人だよ」
彼……彼女は普通の会社員の反面、頭脳と技術を駆使した悪さで荒稼ぎをしている。
最初のコメントを投稿しよう!