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2日後の夜ビリオンス社を訪ねた。
緑と紫と茶色の壁紙の、だだっ広い会議室に通される。真中要は10分ほどでやって来た。
「どうもお待たせしました」
丁寧で紳士的な男だと思っていたがとんだ思い違いだった。合成してまで女の子を脅す卑劣な男。もう人間の皮をかぶったモンスターにしか見えない。殴りかからない自分を讃えたいくらいだ。
「申し訳ありません、突然やって来てしまって」
「いいえ。今日はもうアポもなかったので」
別段驚きもないようだ。この男にとって俺が来ることも想定内だろう。
「それで、今日はどのようなご用件で?」
「森恵。クスリ入りのシャンパンを飲ませるためにホテルスタッフになったり、サヤに扮して抱かれるなんて、よっぽどあなたに惚れてるんですね」
眉間がピクリと反応する。真中は目を細めて微笑んだ。
「何の話ですか?」
「動画でっちあげて付き合うように強要しましたよね」
「さて、一体なんのことやら。記憶にありませんね」
「しらばっくれないでくださいよ。全部彼女から聞きました」
わざとらしいため息を吐く。
「事情がよく分かりませんが、彼女が1人でそう言ってるだけでしょう。君は彼女に好意を利用されてるのでは?」
「それをやって、私と彼女に何のメリットが?」
「さぁ。女の子の考えてることなんて私には分かりませんから。とにかく身に覚えがありません。心外極まりない」
真中はすぅっと立ち上がった。
じりじりにじり寄って来る。腕を伸ばすと、俺のスーツのポケットから忍ばせておいたボイスレコーダーを抜き取った。それはぐしゃっと踏み潰されたのちコーヒーの中に沈められた。ジュンと音をたててレコーダーは壊れた。
俺は顔をしかめた。雨宮のように簡単にはいかないか――。
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