4.アヤとキヨシ

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言質(げんち)を取ろうとしたって私は引っ掛かりはしない。私が脅した証拠でもあるのかね?」 「……いいえ」 「そうだろう。そもそもそんな話は事実ではないからな」 椅子にゆったり腰かけ、顎を持ち上げ、さぁどうすると言わんばかりに勝ち誇った顔でこちらを見ている。 「真中澪」 その名前を口にすると一瞬で顔色が変わった。化けの皮がベロンと剥がれるその瞬間を見た。 「お姉さん、死んでますよね、10年前に。ビルの屋上から飛び降りって、一体澪さんに何が――」 「気やすく名前を呼ぶなッ!」 きんきん耳鳴りがするほどの大きな声だった。殺気が全身からくゆり立ち、ここが会社でなかったら刺されていたかもしれないとすら思った。 俺は写真を取り出してテーブルに置いた。黒髪、涼やかな目、抜けるような白い肌。サヤとの違いは表情か。たまたまなのかもしれないが、取り急ぎ手に入れた真中澪の表情はどれも人形のように暗かった。 「本当によく似ている。でもサヤは澪さんじゃありませんよ。卑怯な手を使ってもあなたのものにならない」 真中は恨めしそうに俺を睨んでいる。危ない目だ、久しぶりに向こう側の人間を見た。 「ところで、正義の味方って知ってます?」 空気を変える明るい声で切り出してみる。 「……何だと?」 「悪いことをしたら神様が見ていて、正義の味方に依頼するんです。あいつの悪の道具を奪っておしまいって。あなたの大切なもの、正義の味方に奪われてないですか?」 真中がはっとして立ち上がる。ポケットからスマホを取り出し操作をする。ブルっと震えた。 「お前……ッ! 不正アクセスをしたな!?」 まさに阿修羅の形相。 「不正アクセス? なんのことですか?」 「この野郎! とぼけるな! 消えているじゃないか!」 「身に覚えがありません。心外極まりない」 真中がスマホを握りしめる。狂気と殺意を肌で感じる。 「事情が分からないですが、何か大切なものがなくなっちゃったんですね。残念でしたね」 再び椅子に座った真中は俯いてうち震えていた。悔しくて震えているのだろうか。 「……左海さん。面白い方ですね」 震えにはくつくつとした笑いが含まれている。どうやらおかしくて笑っているようだ。
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