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「何を笑っているんですか?」
「まだまだツメが甘いなぁと思いまして」
「なに?」
「自宅のパソコンとスマホのデータを消してやった気になっていたのですか?」
傍らに置いてあったノートパソコンを開いた。一心不乱に操作をしている。俺は気づいた、その中にもデータが入っているのだと。まさか会社のパソコンにまで卑猥なデータを残しているなんて――。
「やめろ! 送るなッ!」
飛び掛かったが、真中の指がエンターを押す方が早かった。
「御社全員に送ってあげました。もちろん海外サーバーを経由した匿名で、です」
「なんてことを……」
がくんと膝をついて床に這いつくばった。
「サヤ……ごめん……」
「今更謝っても仕方がない。君も見て楽しめばいいんだ」
真中は非情にも動画を見せて寄越した。その動画はリアルで胃の中のものをぶちまけそうになった。
「よくできているだろう?」
「違う……これは、サヤじゃない……」
「見る人からすれば清ちゃんだ」
「違う、違う……」
うわごとのように繰り返す。
「下手な抵抗なんてせず大人しく言うことを聞いていればいいものを。君が清ちゃんを追い詰めたも同然だな」
俺はふらりと立ち上がった。そして縺れる足で出口へ向かいノブに手をかける。
「メール、送信できてるかちゃんと確認した方がいいと思いますよ」
ノートパソコンの画面に向き合う真中の顔が怪訝そうに曇った。みるみるうちに苛立ったものに変わり、何度もエンターを連打しているようでキーボードがかちゃかちゃなっている。
「あれ、ほんとに送れてないんですか? なんでだろう? 電波妨害でもされてるんですかね?」
「き……貴様ぁ!」
PCがふっとんで来る。寸でで避けたが危うくクリーンヒットするところだ。クマかよ。
「あ、ボイスレコーダー、1つとは限らないんで」
ポケットからもうひとつのレコーダーを取り出す。
「自供、どうもありがとうございましたー! そういうことみたいなので刑事さんお願いします!」
サヤの訴えと事前の根回しで警察がすぐそこに来ている。
証拠と、本人の自供により真中要は捕まった。
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