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船が停止する。たぷたぷと揺れる中で軽機材を身に着けていく。グローブ、ブーツ、フィン、マスク、さすがに暑いらしくサヤも大汗をかいている。装備やエアに問題ないか最終チェックを行う。
「ん、オッケー。酔うから先にエントリーしていいよ。ロープ掴んで待ってて」
「うん」
空に水しぶきを飛ばして、お手本のようなバックロールでサヤはエントリーを決めた。
「前はあんなに怖がってたのに。おねえちゃん凄い成長しとるなぁ~」
「ほんとですねー」
「相棒のおかげだね」
「嬉しい限りですねー。じゃあ、行ってきまーす」
シマさんにアイコンタクトをし俺もエントリーし波の上で向かい合った。
「どう、大丈夫?」
「うん。大丈夫。きもちいい!」
「潜行したら軽くスキルチェックするから」
「はい!」
まっさらな砂地で初歩的なスキルチェックを行う。レギュレーターのクリアにリカバリー、マスククリア……パニックをおこすこともなく落ち着き払っていた。
水中ノートに文字を書く。
『油断禁物。驚いても落ち着いて行動』
親指と人差し指で丸を作った『大丈夫』のハンドシグナルが返ってくる。
風も穏やかで、透明度も抜群。1年前よりも素晴らしいコンディションだ。
砂地を抜けると百花繚乱の珊瑚が現れた。目の前で魚の大群が跳ねる、躍る。
レンズ越しではあるもののサヤの目が楽しそうに輝いているのが分かる。カメラを渡すとイソギンチャクの中のカクレクマノミや目の前を横切る美しい魚たちに向かってシャッターを切っている。
束ねた髪の毛が水中でふわりと揺れて魚の尾びれのように光を受ける。サヤ自体が美しい魚のようだ。
水を得た魚。
俺はしばしぼんやり浮かんで、はしゃいでいるサヤを眺めていた。
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