4.アヤとキヨシ

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『クマノミのペアだね!』 文字と共にへたくそな魚の絵が描かれていた。 クマノミはひとたびペアになったら、例え相手が死んでもずっと想い続ける――前にそんな話をしたっけ。 俺もクマノミと同様、生涯をサヤに捧げ、誠心誠意尽くしたい。 そんな想いを胸に、サヤの左手をとってグローブを外す。グローブを一旦ポケットにしまい、代わりにエンゲージリングを取り出した。 薬指にそれを嵌める。 思った通り、サヤによく似合っている。 サヤは角度を何度も変えてじっくり眺める。手のひらを天にかざした。ダイヤモンドがきらきらと光に反射する。 笑ったせいで口の中に水が入ったようだ。すぐさまレギュレータークリアを行った。 海が怖いと泣いて怯えていた子はもういない。一人前のダイバーだ。そう思うとなんだか欲が出てしまった。 『ここでキスしちゃう?』 俺たちは命綱でもあるレギュレーターを口から外し、この美しい出会いの海で誓いのキスをした。
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