4.アヤとキヨシ

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「リョウ、大丈夫?」 「……ごめんね……」 「まだ38度もあるね……。おかゆ作っといたから、お昼食べれそうだったら食べて?」 「ありがとう……いってらっしゃい……」 俺は寝込んだ。心と体は繋がっているならばそれも当然の生理反応だったのかもしれない。 仕事に行ったサヤを見送るとスマホを取り出しそのページをじっくり見直す。 【世界中を飛び回る若きアーティストと、宮の森リゾート次期社長の飽くなき挑戦】 若い頃の父と伊東香のインタビュー記事だ。不鮮明な写真ではあるが完成した白銀チャペルの前でふたりは微笑んでいる。 父はこの時すでに伊東香と深い関係にあって、母が俺を身籠もるまで仲は続いた。 【伊東 香(いとう かおり):16歳でスウェーデンに一人旅をし、アイスオブジェの美しさに感銘を受ける。すぐに現地職人に弟子入りをし学び始め、18歳でスウェーデンのアイス・モニュメント賞を受賞。国内外で数々の賞を受賞。】 嫌悪感というフィルターを外して見るとサヤと伊東香はよく似ている。間違いなく母娘だ。今となっては何故気づかなかったのか不思議でならないが……。 自分の胸に手を当ててみる。 誰の娘であってもサヤはサヤだし、俺はサヤを愛してる。それだけは絶対に揺るがない。 問題は、サヤと父の血の繋がりの可能性だ。父は自分の娘なのではないかと疑い幼い彼女を無理やり捕まえて確認しようとしたほどだ。父は『時期が一致していた』とも話していた。 一方、伊東香は頑なに父の子ではないと否定したという。彼女はなにをもって否定したのか? 正式にDNA鑑定をしたのだろうか。ならば何故父にそう言わない? 伊東香は鑑定などしていないのではないか。感情的なところで、不倫相手の子供ではないと思いたいだけなのではないか。 調査は一体どうなってるんだ? スマホの画面をブラウザから電話へ切り替える。父の番号をタップする。 コールが鳴るが留守電に切り替わってしまった。そこで意識が朦朧として力尽きた。 サヤが大好きだ。それが俺たちの血が遠い明確な証拠であるはず。
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