43700人が本棚に入れています
本棚に追加
/449ページ
翌朝、父に呼び出された。
会社にはもう1日休むと連絡し、サヤには実家に行かないといけなくなったとだけ告げた。何か察したようで深くは聞かれなかった。嘘はついてないが話せないでいることに胸が痛んだ。
「帰ったら、話そう」
「分かった。いってらっしゃい」
いつまでも隠してはおけない。帰ったらきちんと話そうと決めて家を出る。
密談は母のいる実家では出来ない兄の病室で行う。
俺を認めた父は立ち上がった。目線を合わせる。その目には威厳のような光が灯っている。
何を言われようとも絶対に別れない。そんな気概で父の目を見返す。
「家に入れ。TR社にはついさっき話を付けた。あと1週間で引き継げ。バリ島の開発責任者としてお前の席を作る」
矢継ぎ早に言われ脳の処理が間に合わなかった。
「何勝手に決めてんだよ。ばかじゃないの。いくらなんでも無茶苦茶過ぎるだろ」
「マスコミに嗅ぎつけられたらどうする。傷つくのはお前じゃない。だいたい異母兄弟で結婚なんてまったく現実的じゃない。子供だって作れない。そんな無理を彼女に強いるのか。女性の幸せを奪うのか」
何故この男は、もっともらしい顔をして、もっともらしい言葉を並び立てている?
「なにが女性の幸せだよ。サヤの幸せを勝手に決めるな。サヤは」
「清ちゃんは納得してくれた」
「は?」
「昨日、香と香の夫と共に清ちゃんにすべてを話した」
「昨日……?」
サヤは昨日、いつも通りに笑っていたじゃないか。
ご飯を食べて、何度も愛し合ったじゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!