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――リョウが欲しい
血の気が引いていく。
沖縄での最後の夜、サヤはそう言って俺を欲しがった。
そして、嘘をついていなくなった。
俺は踵を返して走り出した。
「清ちゃんはお前を思って身を引いたんだ。これ以上追いかけるな」
電話する、出ない。車に乗り込み可能な限りのスピードで飛ばす。携帯が振動している。薪菱。
「リョウ先輩もあと1週間、サヤ先輩も今日突然退職って、何があったんですか!?」
「サヤ、会社来てないの?」
「来てないですよ! 朝出勤したら部長が辞めたって言うから! でもさっきサヤ先輩から電話きて……」
「なんか言ってた?」
「海外に行くとか言ってましたけど……」
「海外?」
「あとは……『絶対に活躍してください』ってキヨシが言ってたってアヤさんに伝えてって……」
アヤさん、キヨシ……。
「ちゃんと説明してくださいよっ! どうしちゃったんですかっ!」
「ごめん仕事のことはなんとかするから持ちこたえて!」
「ちょっと、リョウ先輩――!?」
電話を切ってもう一度サヤに電話をかける。やはり繋がらない。一緒に入れたGPSアプリもログアウトされている。
駐車場に車を止め、無我夢中で走る。
父は、サヤの両親とともにすべて話したと言った。突然父親は違うと告げられ、不倫の子だと告げられ、俺と兄妹だと告げられてしまったサヤの心はどれだけ痛かっただろう。
「サヤっ!!!」
自宅のドアを開ける。
「……サヤ……」
サヤの私物、お揃いで買ったもの。
全てなくなっていた。
サヤは、また俺の前から消えた。
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