6.純と香 コオルリンゴ

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建設予定地の雪原から引き上げる。 今日から約8週間過ごすホテル玄関手前に立ち見上げると、山岳地帯には珍しい高層タワーが二本、鉛色の空に向かって伸びている。 宮の森リゾートは元々、経営破綻したホテルや旅館を格安で買い取り再建させる事業を主に会社を拡大させてきた。 このタワーホテルもそうだ。 初代運営会社時代はバブル期ということもありスキー客のみをメインにしたビジネスモデルでも充分成り立っていた。 ところが、周辺にショッピングモールやキャンプ場や野球場などさまざまな施設を併設する壮大な計画を立てたところでバブルが弾ける。資産デフレが起こりあっという間に終焉。運営会社をコロコロ変えるもうまくいかず最終的にうちが買収した。 スキーだけでは誰が運営しても黒字化には至らない。『絶対にここに行きたい!』と客をワクワクさせる革新的な企画が必要だった。 北海道のマイナス20度近くなる極寒という悪条件を逆手に取り氷と雪で作る『白銀チャペル』は、私が社長である父に提案した冬季向けのアイデアのひとつだった。 結婚式場はどこも似通っていて個人的にハンコ絵のようだと感じていた。 もっと型破りができないだろうか。宮の森リゾートらしい、唯一無二の、ここでしか出来ない結婚式場を作れないだろうかと考えた。 そこで、約2年前にスウェーデンでオープンした世界初のアイス・ホテルを着想に『白銀チャペル』の企画が閃いた。 いよいよ婚礼事業に手を出そうとしていた父は喜んで食いついた。 あっという間にプロジェクト化されたのはいいが、会社に入ったばかりだというのにいきなり開発責任者に任命され、現場に放り出され、今に至る。
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