6.純と香 コオルリンゴ

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「北海道のお仕事は、今日からでしたか?」 「ええ、まだ技術者と事前打ち合わせの段階ですが」 「どうか事故のないように気を付けてください」 「はい。ありがとうございます」 「あの、お式のこととかを決めていきたいのですが……」 結婚式半年前といえば通常であれば準備を始めあわただしくなる頃合いなのだろう。 うちに限っては日程も招待客も内容も全て親同士が勝手に決めている。菓子ひとつ招待状ひとつにしても、横の繋がりを考え含ませなければいけないからだ。 決められることといえばせいぜいどの友人を呼ぶかとかその程度。他に、私と春で決めることがなにかあるのだろうか? 「次、いつお会いできますか?」 名家の娘らしく容姿にも恵まれた慎ましい才女ではあるが、いつもどこか機械的だった。 最初に会った時、ぬかるみで転びかけた春に咄嗟に伸ばした手を思い切り払われた。言葉を交わさなくとも彼女の本心が分かった。 「予定を確認して今夜にでも折り返し連絡します」 13時が近づいている。手短に挨拶をして切った。
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