6.純と香 コオルリンゴ

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「すべて氷にしませんか」 「えっ?」 「椅子も、ピアノでさえも。可能であれば周辺のアクティビティもオールアイスにしたいところですが」 私は最初、香が冗談でも言っているのかと思った。が涼し気な目は、本気だと語っている。椅子も、ピアノも氷に? この企画はすでに上層部で何度も会議を重ね稟議を通し、予算組みまで明確にされている決定事項だ。様々な人が動いているプロジェクトだ。それを始動直前で覆すのは現実的ではないし非常識だ。 しかしそれをこの人に言っても通用しなさそうだ。 「中途半端にガラスを加えるより全部氷にした方が話題性もあるし宣伝しやすいのでは」 「しかし……」 私は自分が腕を組んでいたことに気付いて解いた。腕を組む行為は、心理的に警戒や反対している心の表れだ。話し合いの最中にそれをするのは我が家では禁止されている。 「宮の森リゾートはこれまで徹底した斬新さで成功を重ねてきたと思うのですが、そうでもありませんでしたか?」 所詮お坊ちゃんはその程度かと言われているように感じた。 父ならどうするだろうと考える。父ならきっと、再考すると思い至った。 「では、企画を考え直すにあたって、あなたに相談させていただきたい。私では分かりかねる部分が多々あります。雪も足らなくなるでしょうし、人手の問題も出てくるでしょう」 「もちろんそのつもりです」 話し合いは白熱し、そのままレストランで夕飯も済ませた。香はまたもやミネストローネを頼んだ。よっぽど好きなのだろう。
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