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空気すらあげてもいいと思えたのは本当に、サヤだけだった。
*
『絶対活躍してください』
サヤはそんな言葉を置いて俺の前から消えた。何も話し合うことなく、何も言葉を交わすこともなく突然消えた。
なぜ……。
話し合ったって苦しい時間がただ増えるだけで、俺たちの体の中に流れている血が変わるわけじゃない……そう思ったのかもしれない。
サヤの苦痛の一部を引き受け入れることすらもできず一方的に去らせてしまった。
俺は泣いた。こんなに涙が出るのかと思うほど泣いた。目に入る物を次々壊し、狂ったように泣き叫んだ。
すべてがこの血のせいなら、自分自身すらも大嫌いになった。
涙が尽きると次は虚無感に襲われた。
自分の存在意義が分からなくなった。
ただただ消えたいと思った。
自らを消すという兄の気持ちが少しだけ分かったが、兄ほど繊細でない俺にはそこまではできない。
宙ぶらりんだ。
意図的に清の気配が消されたガランドウともいえる部屋の中で、愛し合った記憶が濃く残っている部屋で、俺は左海家を出る決意をした。
日本を離れようと決めた。
左海家のつとめ? 責任? どうだっていい。
まだ若い父がそのまま社長でいればいいし、いざとなれば腹心の誰かをトップに据えればいい。
別にどうにでもなるさ、俺じゃなくとも。
会社なんてそんなもんだろう。俺にしかできないことなんて実は何ひとつないはずだ。
1週間後に父が俺をバリ島の開発責任者に据えるために迎えに来る。
その前に行方をくらませようと立ち上がる。
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