あの子の秘密

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あの子の秘密

「大丈夫ですごめんなさい!私はただ、そっちは男子トイレだと伝えたかっただけなんです!余計なお世話でしたよね?本当にすみませんでした!」 焦りから早口でまくし立てるように喋り出した私を、ぽかんとした表情で少女は見つめてくる。 道路の明るい街灯の下でいざ相対すると、その瞳が綺麗な緑色であることに気付いた。 やっぱり外人なのでは? いや、カラコンという可能性もあるか。 どちらにせよここらが潮時、もう立ち去った方がいいだろう。 「ではッ、これにて御免ッ!」 咄嗟に放った台詞に武士じゃないんだからと内心突っ込みながら、震える足で踵を返し立ち去ろうとする。 一歩踏み出そうとして、「ちょっと待って!」少女に左腕を掴まれた。 予想外のことに思わず転びそうになるのをどうにか堪えることができたが「意外に力強いッ!?」心の声がダダ漏れた。 「あっ、悪い。痛かった?」 抗議と思われてしまったのか、少女は申し訳なさそうな声で謝るとあっさりと手を離してくれた。 悪い子ではないんだなと少女への印象を改めながら、私は体勢を崩して転んだ。 尾てい骨と、咄嗟に地面についた右手が痛い。 いや痛いのは今までの自分か。 夜勤明けで脳が疲れているとはいえ、我ながら随分と挙動不審な言動をしたものだ。 なんだか悲しくなってきた。 やはり知らない人に声を掛けるんじゃあなかった。 「ゴメン。怪我してない?」 少女の声が真正面から聞こえる。 尻餅をついた状態で微動だにしない私のために、しゃがんで目線を合わせてくれている。 これじゃ私の方が年下の子供みたいだな。 「心配させてごめんね。この靴まだ履き慣れてなくて。大したことないから気にしないで」 心配そうな顔で見下ろす少女へ、素の言葉と口調で答えて笑ってみせた。 あれだけ無様を晒した後だから、もう体裁を取り繕う意味なんてないだろう。 驚いた表情をした少女だが、次の瞬間には笑みを浮かべた。 その美しさについ見惚れてしまう。 「そっちの方が良いよ」 小さな呟きとともにポンと優しく叩かれた肩が、なんだか軽い。
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