君との思い出はきら星のようで

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 胸の中のイライラの炎は、赤色の制服に袖を通してから店内に戻ると、いつの間にかやる気の炎に変わっていくのもいつも通り。  でも、未だに一つだけ分からないことがある。  それはおばあちゃんがここで働くのを薦めてきた理由だ。 ――きっとお前の修行になるからのぅ。  と言っていたが、いったいどういうことなんだろう。  ずっと心の片隅に小さなしこりとなって残っていた。  しかし、この日。  そのしこりが取れる時がやってくるのだった。  それは一人のお客様の来店がきっかけだった。  黒縁の小さな眼鏡に、柔らかそうな髪質の黒髪。とても優しそうな穏やかな顔つきが特徴的な、私よりちょっと年上の、学生風のお兄さんだ。   「いらっしゃいませ!」  外の太陽のように明るく挨拶をすると、人の良さそうなお兄さんは、ニコリと微笑みかけてくれる。  でもその直後、私は目を丸くした。  なんと彼の足元に可愛らしいチワワが尻尾を振りながら、ニコニコとしているのだ。  大きな瞳をキラキラさせてご主人であるお兄さんを見つめている姿は、愛くるしくて悶えそうだ。   ――でも、ここは心を鬼にしなくちゃダメよ、麗! 店内にペットを連れてくるのは禁じられているんだから。   「お客様! 店内にペットはご遠慮ください!」  毅然とした態度で注意した私に、今度はお兄さんが目を丸くしている。  するとゆっくりと近づいてきた店長が、そっと耳元でささやいたのだった。   「この子は入店しても問題ないよ」 「えっ?」 「浅間さん、これも修行だよ。頑張ろうね」  驚きの一言に思わず振り返って店長の顔を覗き込む。  店長は目を細めて、こくりとうなずいた。  その表情を見て、私は瞬時に店長の意図を理解して、すぐにお兄さんに頭を下げたのだった。   「ごめんなさい! 変なこと言っちゃいました! さっきのは忘れてください!」 「え? ああ、はい」  お兄さんは、目を点にしながらお弁当コーナーへと歩いていく。  私は微笑ましい気持ちで、彼の背後に目をやった。  そこには、確かにいるのだ。    尻尾を振りながら、彼の背後をピタリとついていく『あやかし』が……。  そう、この愛くるしいチワワは、お兄さんの『守護霊』なのである――
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