君との思い出はきら星のようで

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 お兄さんはそんな私の様子をちらりと見ただけで、特に怪しむこともなく、すぐに視線をそらした。   「そうっすか……。そうっすよね」  彼の言葉を耳にして、私はほっと胸をなでおろした。  何事もなかったかのように会計を済ませ、あとはお弁当が温まるのを待つだけとなる。  ただ、奇妙なやり取りもあったせいか、私たちの間に流れる沈黙が、なぜかちょっとだけ気まずい。  とそこにアヤメがやってきて、そっと私に耳打ちしてきた。   「麗ちゃんは鈍いわねぇ。そんなんだからいつまで経っても彼氏ができないのよぉ」  な、なんてこと言ってくれるのかしら! この女狐は!  しかしそれを声にも表情にも出すわけにはいかない。  なぜなら目の前のお兄さんには、アヤメの姿が見えていないのだから……。    私は笑顔を引きつらせたものの、必死に声を出さないように耐えていた。  私が何も反応できないのをいいことに、彼女はさらに続けた。   「こういう時は、話を聞いて欲しいってことでしょぉ。何か気の利いた質問の一つもできないのかしら? ああ、無理かぁ。ろくに男を知らない三つ編みおさげちゃんには」 ――ブチッ!  私の中で何かが音を立てて切れた。  そして考えもなしに、口が動き出したのだった。   「ご、ごほん! え、えーっと。お兄さんはペットとか飼ってたんですか?」  突然そう切り出されたものだから、お兄さんは戸惑ってしまったようだ。  目を大きくして聞き返してきた。   「え? どうしてですか?」 「え? どうしてって、その……。えーっと……」  想定外の切り返しに、目が白黒になってしまう。  お兄さんの隣に立っているアヤメが「ほほほ!」と高笑いしているのが腹立たしくならないほど、私は困惑していた。  ……と、その時だった。
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