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夏休みに入ったばかりの夕暮れ時。昼間に大合唱していた蝉たちもようやく疲れてきた頃のこと。
オレンジ色の夕陽が、カーテンもない不用心な小さな窓から射しこんでくれば、人がすれちがうのがやっとなほど細長いこの部屋は、陽射しと同じ色に染まっている。
ここはコンビニ『ファミリーセブン南池袋店』のバックヤード。
そこで私、浅間 麗(あさま うらら)は背もたれ部分の合皮が破れたままのパイプ椅子に腰かけていた。
――はぁ……。なんでこんなところへ来ちゃったんだろう……。
今からアルバイトの面接が始まろうとしている。
おばあちゃんが「バイトするならあのコンビニにしなさい」と、強く薦めてきたからだ。
しかし生まれて初めて、おばあちゃんの言葉に従ったことに、激しい後悔を覚えていた。
口をへの字に曲げて、眉間にしわを寄せた女子高生を見れば、普通の面持ちではないと誰でも分かるはずだ。
だが、色白で中性的な顔立ちの青年店長は、そんな私の顔つきなどお構いなしに、微笑を浮かべて問いかけてきた。
「じゃあ、志望動機を聞かせてくれるかな?」
「いえ、私はもう『志望』していないので、お答えできません。貴重なお時間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした。これで失礼いたします」
余計な抑揚もつけず、早口で言いきった直後には、椅子の横に置いたスクールバッグをひったくるように手にして、その場を立ちあがった。
そしてぺこりと頭を下げた後、ドアの方へ振り向いた。
……と、その時だった。
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