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バッ!
私はバッグから『お札』を取り出した。
「まぁ。そんな物騒なものを、うぶな乙女が持ってるなんて、驚きだわぁ」
目を丸くしながらも、余裕の表情を崩さない女狐(めぎつね)のあやかし。
でも、きっと強がりに違いないわ。
だってこのお札は、私のおばあちゃんである「浅間ウメ」の特製なのだから。
口寄せの巫女一家である、浅間家。
中でもおばあちゃんの浅間ウメはずば抜けた能力の持ち主で、結婚して巫女を退いた後も、神職の資格を持つママとおばあちゃんは、女性神職として神社のお仕事をしている。その傍ら、全国を飛び回って、口寄せの力を世に役立ているのだ。
そんなおばあちゃんの血を引く私は、生まれた時から、あやかしや幽霊などが、まるで実在しているかのように見える能力を持っている。
その一方で、自分から彼らを引き寄せてしまうという厄介な特徴もあるのだ。
幼い頃はおばあちゃんやママが、悪いあやかしを退治してくれていたが、女子高生ともなるとそうはいかない。
だから『見習い巫女』である私に何かあってはいけないと、「あやかし退治のお札」を持たせてくれていたという訳だ。
まさかこんなところで役に立とうとは、思いもよらなかったわ。
「さあ、観念なさい! もうあなたはここまでよ!」
「ふふ、だってさぁ。藤次郎。どうするのぉ?」
女狐は小枝のように細い指を、店長のあごに滑らせながら問いかけている。
店長さんはどうやら『藤次郎』という名前らしい。
それはどうでもいいとして、『普通の人間』である藤次郎さんの耳に、あやかしの声が届くはずもない。彼の前には、気狂いを起こした女子高生の姿しかないはずなのだ。
「ふざけないで! これ以上、人をからかうなら、もう容赦しないわよ!」
あまりこのお札は使いたくない。
おばあちゃんいわく、「お札で成仏したあやかしは地獄で苦しむでな」と教えてくれたからだ。
でも、こうなったら仕方ないわ。
このままだと店長が女狐にとり憑かれてしまうかもしれない。
いや、もしかしたら既にとり憑かれてしまっているかもしれないのだから――
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