君との思い出はきら星のようで

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◇◇  渋谷や新宿などと並ぶ、東京を代表する繁華街の一つ、池袋――  60階建てのビルがシンボルのこの街は、大きなデパートが駅を挟んでいくつも並び、行列のできるレストランや派手なゲームセンターなどあらゆる娯楽が所せましと軒を連ねている。    でも、池袋駅の東口から明治通りを南へ15分も歩けば、都会の喧騒が嘘のように閑静な住宅街に出る。  そこの一角、都心とは思えぬ鬱蒼とした木々に囲まれた場所に、小さな神社が建っている。その社務所が私の自宅だ。そこに宮司のパパ、そして元は巫女で、今は女性神職であるママとおばあちゃんの四人で暮らしている。  そしてそこから自転車で3分ほど走らせた先に『ファミリーセブン南池袋店』はひっそりとたたずんでいるのだ。 ……… ……  アスファルトが溶けてしまうんじゃないかと思ってしまうくらいに暑い夏のある日。  私は転がるようにしてお店の前までやって来た。  自動扉が「ウィーン」と音を立てて開いた瞬間に、店内の冷気が火照った顔に当たる。  それはさながら南国のジャングルと北極の大地のようなギャップに、   「くうぅぅ! この瞬間がたまんないのよね!」  と、思わず女子高生とは思えないような台詞が口をついて出てきてしまう。  おばあちゃんに聞かれようものなら、 ――こらっ、麗(うらら)! はしたない真似はよしなさい!  と、雷を落とされてしまうだろう。    でもこれは私のせいではない!  東京が猛烈に暑いのが悪いのだ!  ……と、そんな言い訳をしながら店内に入ると、入り口から少し離れたところにあるレジカウンターから、風鈴のような涼やかな声が聞こえてきた。 「おはよう、浅間さん」 「あっ! おはようございます! 店長!」  まるで新雪のように一点の汚れもない真っ白な肌の店長の笑顔が目に入ってくると、私の口元も自然と緩んだ。  清涼飲料のような店長の姿と、クーラーの効いた店内のおかげで平熱に戻った体。  だが次の瞬間には、再びかっと熱くなってしまった。  なぜなら憎たらしい妖狐が視界に入ってきたからだ。  彼女は、店長に寄りかかりながら、気味悪い笑顔で手を軽く振っている。  私は口を尖らせて文句をつけようとした。  しかしすんでのところで思いとどまり、冷静になって考えたのである。  
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