女王様と俺 思い出

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「・・・まあ、俺もそんなところ」 「そうなんだ・・・。江口は?」 「俺もそうですね。野球が忙しくてそれどころじゃないというか…」  鼻の頭をかりかりとこすりながら江口は照れた。  何故そこで照れる。  見てはいけないものを見たような気がして岡本は目をそらした。 「なんだ、つまんねえな・・・。みんな、案外、セーシュンしてないんだなあ」 「それとこれは別だろ!!」  もう一度池山の首をぎゅうぎゅう締めながら叫んだ。 「酒を飲んでもいないのに、いや、酒が残ってるから昼間っからこんな話してんのかよ!!なら、今すぐその酒をここに吐き出せ!!」  締められながらも池山はへらへらと笑ってキッチンへ声をかける。 「で、長谷川。相手は誰だったの?俺は近所のお姉ちゃんだけど」 「ああ、似たような感じかな。親戚の…」 「律義に答えるな~!!」  岡本と立石が同時に絶叫した。 「別に今更、十五の時の相手なんて痛くもかゆくもないだろう」  心底不思議そうに首をかしげる長谷川に、 「いや、親戚の集まりへ顔を出した時に困るから…」  背中を丸め、小さな声でぼそぼそと立石がつぶやいた。 「…この期に及んで、まだこんな女と結婚する気満々なのか、立石…」  耳聡く聞きつけた岡本の頭痛がさらに酷くなったのは言うまでもない。  思い出は思い出のままに。  決してそれを取り出してはならぬ。  その美しさを大切に思うならば。
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