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「全く身に覚えがないね」 私はため息をわざとらしくつきながら、若者にそう言った。 「そうですか。まあ妄想である可能性は高いですよ」 あの家族が、血まみれになって苦悶に歪んでいる顔、 死者の顔が脳裏にフラッシュバックする。 私はあの殺戮の現場にいた。 興奮していた、異常な、あの時の精神状態すら思い出した。 血まみれのゴルフクラブも。 「いずれにしても私が殺された話とはかけ離れた妄想話だね。話が横道に逸れ過ぎてると思うが」 「そうでした。あなたを殺した犯人探しをしてるんですからね。ただあなたに家族を殺された人間の復讐かもしれないと思ったものですから」 「それはないだろう。よく知らない家族の皆殺し事件と私は関係ないんだから、恨まれる筋合いはないよ」 「まあそうですね」 全て昔の話だ。 今更、あの家族のことを憶えているのは、あの女だけだろう。 それも今や、精神科の閉鎖病棟に入れられているのだから、証言に証拠価値はない。 全ては葬り去った過去の話だ。 「ただですね」 若者は急にボソボソと話し始めた。 「何だね?」 「あなたの遺品を見せてもらったんですが、その中に、僕が閉鎖病棟で面会した女性の写真がありました。これも妄想の産物なんですかね?」 若者は不敵な笑みを浮かべて、私にそう言った。 こいつは、私と彼女の関係を知っているのか?!
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