明日がみえなくて

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* 「今度は、君のこと聞かせてよ」 「━━え?」 「月に手を伸ばした理由」 「あ……」 《今度は》なんて言ったって、自分は教えてくれなかったくせに。 「そんなの……知りたいですか?」 「うん」 「……笑わないでくださいね」 「笑わないよ」 私は軽い息を吐いてから、空を見上げた。 「月に助けてもらいたかったんです」 視線は感じたけど、彼は何も言わない。 「向こうの世界に連れてって欲しかった。 月に住みたいとか、そんな非現実的な望みじゃなくて、ただ、この世界から消えて無くなりたかったんです」 「………どうしてそう思ったの?」 それはいつもより小さく、低い声だった。 「生きてても辛いだけだから」 「何か嫌なことがあった?」 「特には。ただ、つまらないんです。毎日が。退屈で窮屈で。生きてる意味がまるで分からない」 「……それはつまり、死にたかったって事?」 彼を見ずに頷いた。 「……くだらないな」 静かに吐き捨てた声のトーンに、思わず顔を向けた。 「……つまらないから死にたいなんて、余りにもくだらなすぎる」 それは大人の説教が始まる前置きではなく、明らかに私情を含んだ怒りの言葉。 その表情。 ━━━いつもの成瀬さんじゃない。
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