明日がみえなくて

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  「……怒って……るんですか?」 恐る恐る訊いてみる。 「怒ってるよ」 ストレートに返す彼の顔から、硬さが少しなくなった。 「……僕の妻は、もうこの世にはいない」 「━━━えっ?」 「死んだんだ。三年前の震災で」 「三年前の……」 すぐに思い出した。 沢山の死者が出た、大規模な地震。 「ちょうどあの日、妻は実家に戻っていて、僕もあとから遅れて行く事になっていた。 だけど━━その前に地震が起きた」 その悲惨な光景は、当時のニュースで連日ながれていた。 被災地は遠くの場所にあったから、同じ日本なのに、どこか知らない国の出来事みたいだった。 というよりも、映画を見ているみたいで全然現実味がなく、 でもこれが事実なら、不可抗力で死ねた人達が羨ましいとさえ思っていた。 いま話をしている人物が、あの時の遺族の一人だと知り、初めて《不謹慎》という文字が浮かんだ。
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