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「ごめんなさい!」
咄嗟に頭を下げた。
頭上から、乾いた悲しみの声が落ちてくる。
「……あの時、妻と一緒に行っていればと、何度悔やんだ事か。
《早く私たちの赤ちゃんが欲しいね》
それが彼女の口癖だった。
それも叶えられずに、妻はあっけなくこの世から消えた。
一人残された僕は、死人同然だったよ」
私はゆっくりと顔を上げる。
「でも死のうとはしなかった。彼女に悪い気がして。妻は最後まで生きたかった筈だから」
《生きたい》
その言葉が、空っぽの私に突き刺さる。
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