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「久しぶり。よかった、もう来ないかと思ってた」
成瀬さんの真実を知った翌日から、私は橋に行かなくなっていた。
どんな顔で、どんな言葉で、彼と接したらいいのか分からなくて。
それでも成瀬さんのことが頭から離れない。
ベランダから見る月は寂しくて、
だから今夜、思い切ってここに来た。
「……あの、この間はすみませんでした」
「僕の方こそ、ごめん。君にも思うところがあっただろうに、くだらないなんて言ってしまって」
私は首を横に振る。
「……だって、本当の事だから。無知でまだ何も経験してないくせに、何でも分かってるような気になってて。その上、死にたいなんて……」
「もういいよ。でも弥生ちゃんには、これからは前向きに生きて欲しい。
何年か後の君の見る月が、今よりも美しいものになっていれば、僕はそれでいいと思ってるよ」
以前のように、並んで空を仰いだ。
目に映る三日月が、既に変化しつつある感情を、私に気付かせてくれた。
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