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日中の晴れは好きじゃないけど、夜に天気が良いのは嬉しい。
それは━━━月を見られるから。
私はベランダよりも、もっと良い場所へと、マンションの外に足を運ぶ。
それほど遅い時間じゃなければ、親に叱られもしない。
自転車で五分ほど走った所に、川を跨ぐ橋がある。
ここがいつもの場所、私の特等席。
自転車から降りると、慣れた足さばきでサイドスタンドを立てた。
欄干に手を置き、空を見上げる。
今夜は満月だ。
暦の上ではもう秋なのに、夜になってもまだ夏の暑さは続いていた。
生ぬるい空気がいつまでも体につきまとい、湿ったシャツが背中に張り付いている。
月を眺めていると、そんな不快感さえも忘れられた。
━━━日常の虚しさも。
月は不思議だ。
なにか得体の知れない力がある。
見つめていると、見つめ返してくれる気がする。
よく分からないけれど、泣きたくなる。
心の中で、そこに連れてって、と願う。
私は天の光に指を伸ばした。
つかまろうとするみたいに。
けれど、ふと人の気配を感じて、瞬時にその手を下げた。
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