明日がみえなくて

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* 「君は、よっぽど月が好きなんだね」 いつもの距離を保ち、彼が声を掛けてきた。 もう何度も顔を合わせているのに、初めて彼の声を聞いた。 その透明感のある声と、突然話しかけられた事実に私は戸惑い、顔を向けるだけで口を開けなかった。 「僕は、仕事の関係で最近越して来てね。たまたま橋を通りがかったら、ここから見る月があまりにも綺麗で。それでほぼ毎日、ここに通ってる」 この人も、わざわざ月を見に来ていたんだ。 「……私もです」 親近感が口を開かせた。 「私もベランダの月より、ここの月を見るほうが好きで」 「そう」 彼は、微笑みに一言を足しただけで終わりにした。 「━━あの、どうしていきなり私に喋りかけてきたんですか? いつも黙ってるのに」
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