33人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「君は、よっぽど月が好きなんだね」
いつもの距離を保ち、彼が声を掛けてきた。
もう何度も顔を合わせているのに、初めて彼の声を聞いた。
その透明感のある声と、突然話しかけられた事実に私は戸惑い、顔を向けるだけで口を開けなかった。
「僕は、仕事の関係で最近越して来てね。たまたま橋を通りがかったら、ここから見る月があまりにも綺麗で。それでほぼ毎日、ここに通ってる」
この人も、わざわざ月を見に来ていたんだ。
「……私もです」
親近感が口を開かせた。
「私もベランダの月より、ここの月を見るほうが好きで」
「そう」
彼は、微笑みに一言を足しただけで終わりにした。
「━━あの、どうしていきなり私に喋りかけてきたんですか? いつも黙ってるのに」
最初のコメントを投稿しよう!