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「なん、だって……?」
忙しなく泣きわめく蝉の声を煩わしく感じていたのが嘘のように、周りの音が一切聞こえなくなる。
――アイツが、さっき病院で息を引き取ったんだって。
友人が死因を告げているが、彼自身も困惑を隠せないせいか、断片的な内容しか頭に入ってこなかった。
――事故。
――飛び出した子どもを、かばって。
しばらく息もつけずにいると、汗が滴り、涙のように頬を伝う。手のひらから力が抜け、押し当てていた携帯を取り落とした。
拾い上げることも忘れ、呆然と立ち尽くし、そこからしばらく身動きができなくなる。
「…………うそ、だろ。なんの冗談だよ。海音 ( かいと ) 、俺はまだ」
――お前に伝えてないのに。
叫び声を上げたくなったのに、こんな時にくだらない理性が邪魔をして、唇を強く噛むことでやり過ごすしかなかった。
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