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海音と知り合ったのは、小学校3年くらいの時だった。 親の仕事の都合で、中途半端な時期に転校させられた和泰 ( かずや ) は、その時不貞腐れて常に不機嫌だった。そのせいか、同級生とも馴染めずにいたのだが、海音は親しげに声をかけてくれたのだ。 ――和泰くん、確か家近いよね?よかったら一緒に遊ぼうよ。 ――別に、いい。俺、一人で遊ぶ。 ――でも、俺、和泰くんと仲良くなりたいから。 そのときの心情はよく覚えていないが、会話の内容だけははっきり記憶している。あまりに無邪気な顔で笑いかけてくる海音に、最初はつっけんどんに接していた。しかし次第に誰よりも打ち解け、かけがえのない存在になった。 いつ大切な友から、恋しい人に変わったのかはわからない。気がついた時には、いつも隣に当たり前のようにいた海音の存在は、他の何にも変えがたいものとなっていた。 それでも想いを伝えてしまえば、それまで築き上げてきた関係が壊れてしまいそうで、心の底に仕舞い続けた。 ――もしも、海音も俺と同じ気持ちなら。 そんな浅ましい夢を何度も思い描いていたけれど、それはもう叶わない。 夢の続きは夢でしかなくなった。
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