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心地いい温もりに包まれた気がして薄目を開けると、霞んだ視界に喉仏が映る。
――かいと、
知らずその名が口をついて出た。
そして、抱き込まれている心地よさに身を預けながら目を閉じると、溜め息が聞こえた気がするが、すでに意識はまどろみに落ちていく。
頭を撫でられている感覚が、とても愛しそうなものだった。
目が覚めた時、部屋には誰もいなかった。机の上には、置き手紙があり、いったん家に戻らないといけないから先に出る、とある。一人きりになった途端、嫌なことを考えてしまいそうになるが、それも無理もないことだろう。
昨日、大切な人がいなくなってしまったばかりで、半ばぼんやりとしていた和泰は、どうやって家に辿り着いたかとか、眠りにつくまで何をしていたかとか、あまり覚えていない。ただ友人の星司がいなければ、もっとひどい状態になっていただろうということは容易に想像がつく。
「俺も、支度しないと」
重い腰を上げながら独りごちると、携帯のランプが光った。着信を知らせる音色が鳴り、星司の字が浮かぶ。
一緒に行こう、と言われ、星司の気遣いを嬉しく感じながらも、どうしてこの声は海音のものではないのだろうかと思っている自分が嫌になった。
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