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「はい、コーヒーどうぞ。熱いので気を付けてください」
「あ、ありがとう」
なぜかコーヒーを渡した後、辻は向かい側ではなく隣に座った。
肩が触れそうな距離だ。
距離を取ろうと壁際に移動しかけたところで、引き留めるように手を掴まれた。
「え、あの、なに……」
「怜音さん、逃げないでください。
俺、最初は、怜音さんが見てくるから気になるだけなのだと思ってました。
でも、割と顔も好みだし、気が付けば俺も目で追うようになってて。
それで、目が合えば赤くなって逸らすところとか、年上相手に失礼ですけど、可愛いなって思うようになって」
「……っ、そんなこと、初めて言われた」
「え?そうなんですか?もったいない、こんなに可愛いのに」
「……っ」
真顔で言われて、心臓が跳ねた。握られた手が、じわりと熱を帯びて、そこから全身に熱が回っていく。
可愛いと言われたからもあるが、熱っぽい瞳が真っ直ぐに向けられていて、捉えて離さないからだ。
「ほらまた、そういう顔して。誘ってるんですか?」
「ちが……っ」
否定しようとしたが、ぐいと引っ張られて腕の中に抱きしめられたため、途中で消えていく。
密着した体から、高鳴る鼓動が聞こえやしないかと思うほど、心臓の音がうるさい。
「あの雨が降った日、怜音さんに話しかけるきっかけができて嬉しかったんです。
どうにか接点を作っていけないかとか考えたりしてたので。
でも、今日会えたのは本当に偶然で、嬉しくて、柄にもなく舞い上がってしまって。
てか、俺ばっかりべらべら喋ってすみません」
「あ、いや。いいけど……」
この流れはまずいと思いつつ、遮ることも話を逸らすこともできないまま、大人しく腕の中に納まっている自分がおかしい。
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