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二人分の体重に揺さぶられ、軋むベッド。 苦痛を訴える悲鳴として耳に届くのは、俺の心が荒んでいるからだろう。 耳障りな音だ。 汗でべったり張り付く前髪を振り払い、ベッドを揺らす張本人である俺は、腰を掴まれてされるがままになっていた男との繋がりを断った。ずるりと抜ける音が、取り戻せないものの大きさを表し、心を空にする。 「なんか、なえたわ。……じゃあな」 多くの悪態をつきたかったのに、やっと絞り出した言葉は、飾り気もない別れの台詞ただ一つ。 一分一秒でも早く立ち去りたいと思うと同時に、時間をかけて身支度を整えることで、相手が気を変えて引き留めてほしいと思っている自分がいて。未練がましい自分に嫌気がさす。 ―――そもそも、俺の方から終わりにしようと言ったってのに。 背中で重い扉を閉めると、途端に自嘲気味な笑みが零れる。 誰かが言っていた。本当に悲しい時は、涙なんか流れないと。 ―――いや、俺の場合、すっかり枯れてしまっただけだ。 乾ききった目に満月の明るさが眩しく、思わず手をかざして自分の目を庇った。 その行為が、過去から目を背けようとしている自分を表しているようで、やけに悔しかった。
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