20人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ん」
口腔をまさぐられる、乱暴で濃厚な口づけだった。
頭の中がじんと痺れて、足から力が抜けると、辻に腰を支えられた。
唇を離し、欲情と悲痛な色を滲ませた瞳で、俺を見つめながら辻は囁くように言う。
「それなら、俺がその人の代わりになります」
「だめだ、そんなことをしたら、君が辛いだろう?」
「いいえ、俺はあなたが、誰かと重ねてでも想ってくれればいいんです。それに、俺はずるい人間なんです。あなたが、俺を傷つけているという罪悪感で、ずっと俺を忘れないでいてくれればいいと、そう思っているんです。だから――」
あなただけが、悪いのではありません。
そう言って、辻はもう一度俺にキスをした。
俺はキスをされながら、自分を責めていた。
どうして俺は、辻のようなことをあいつに言ってやれなかったのかと。
あの時、自分だけが傷ついていると思い込んでいて、あいつがどんな気持ちだったかなんて、考えもしなかった。
そしていざ自分が同じような立場に置かれたことで、ようやく気が付いたとしても、今更どうにもならないのにと。
後悔や自責の念もあった。
けれどそれを超えるほど膨らんでいくのは、目の前の男への、抑えがたい恋慕であることを感じて、静かに涙を零した。
最初のコメントを投稿しよう!