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「………」 席に着いて飲み物をそれぞれ頼んだ後、しばらく、沈黙が続いた。 ホットコーヒーが少し冷めてきている。 お冷の氷が解けて、小気味いい音がした時、元カレが口を開く。 「あいつがさ、お前にずっと、謝りたいって言ってた」 「あいつ」というのは、彼自身のことだとすぐにわかった。 辻がいるからというのもあるが、あえて第三者として話すことで、幾らか話しやすくなっているのだろう。 「あの時、お前が聞く耳を持たなかったのもあるのだろうけど、ちゃんと自分の正直な気持ちを伝えていたならば、お互い傷つかずにすんだかもしれないって。ずっと、悔やんでいたよ」 初めて耳にする本音は、意外なほどすんなり胸の内に入ってきた。 あの時の俺は聞き入れなかったかもしれないが、今は、受け止めることができる。 こいつも、俺と同じように悩んでいたのだと。 相槌を打つと遮ってしまうと思い、彼の言葉をもう少し黙って聞くことにする。 「今更、言っても仕方のないことだと思うけど、あいつ、お前のこともちゃんと好きだったよ。 きっかけはお前の知ってる通りだし、あの晩口にしたのも、未練を捨てきれなかったところがあったのは確かだけど、ちゃんと、お前のことも見ていたよ」 「……っ」 過去の自分が、止まっていた時間が、今確実に動き出した気がして、理由もなく泣きたいような気持になった。
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