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「…ってぇ……夢か」
寝ている間に、ベッドから転げ落ちてしまったらしい。
床で腰を強く打ち付けたらしく、起き上がろうとするとずきずきと痛みが走る。
「つーか、さむ」
腰を摩りながら、ひびかないように慎重に立ち上がり、部屋の中心寄りに設置した暖房器具のスイッチを押す。
体が徐々に温まってくると、今度は口寂しくなって胸ポケットに手をやる。
煙草よりも頼りない感触に首を傾げ、引っ張り出してみると、未開封のミントガムが出てきた。
「これ……」
煙草は嫌いだ、体に悪い。
代わりにこれでも食って紛らわせ。
と言われて、恋人に無理やり渡されたのはいつのことだったか。ミントガムは嫌いだと突き返すのに失敗し続け、結局いつも持ち歩く羽目になったのだと思い至る。
―――突き返す相手も、もういない、か……。
「賞味期限切れてるし」
別に今更口にする気にもなれなかったし、今更口にしたところでガムの味が舌にこびりついて、過去の記憶とともに纏わりついてくるだけだ。
そう分かっていても、物にまで自分たちの終わりを決定付けられたようで、腹が立つ。
「あ~っ、くっそ。煙草でも買ってくるか」
苛立ち紛れに癖毛の強い髪を掻き毟りながら、財布をポケットに突っ込んで家を出る。
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