2 罠

3/14
114人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
   *  学校に着いたのは、昼休みも終わりかけの頃だった。  クラスメイトたちに声を掛けて窓際にある自分の席に向かっていると、坂木(さかき)(はるか)が心配そうな顔で駆け寄って来る。 「大丈夫、冥奈? 体調悪いって聞いたけど」 「あ……うん。もう調子良くなってきたから、午後からでも授業に出ようかと思って」 「そっか……なら良かった」  私の前の席に座った遥が、周囲を気にしながら小声で話し掛けてくる。 「ほら……昨日の茜音のことがあったから、冥奈も動揺しちゃったのかって思ってさ」 「茜音は?」  机に鞄を置いて訊ねると、遥は首を横に振る。振り返って確認してみたが、やはり茜音の席は空いたままになっていた。  長い横髪を指先で弄りながら、遥は肩を竦める。 「結構重症でしょ、その……指が切れちゃったのって」 「今も、病院に?」 「みたいよ。しばらく入院するって。何か取り付けるやつ……義指っていうんだっけ。話によるとそれになるかも、って。先生たちも体育の授業中に怪我させちゃった訳だから、今日はやけにピリピリしてる感じ」 「……」  今回のことは、全て昨日のあの事故から始まっていた。茜音の怪我をきっかけに私と幹二さんは弥鞍神社へと向かい、そしてあの惨劇が起きたのだ。  すでに茜音の怪我が無関係だと言い切ることは出来なかった。人間の体を容易く切断するフタクチの牙の犠牲になった死体を、私はその目で実際に見てしまったのだから。 「どうかした? 冥奈」  訝しげな視線を向ける遥に、慌てて首を振る。 「ううん、何でもない。でも、ちょっと気になることがあって……」 「気になること?」  私は周りにクラスメイトが居ないことを確かめた後、声を潜めて訊ねる。 「あのさ、遥。昨日のバスケで茜音が怪我した時、周りに居たのって確か私と遥……あと誰だった?」  おかしな質問だと思われるのを覚悟していたが、遥はさほど気にする様子もなく人差し指を顎に当てて考え込む。 「えっとね……私と茜音がオフェンスだったでしょ。でも茜音がボールを逸らしてルーズボールになったんだよね。そこに何人が一斉に集まって……ええと、誰が居たっけ」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!