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時折、隣の席の田所純也が私の方に視線を向けてくる。
大丈夫、というように私が目を細めると、彼は微かに笑顔を返して頷く。
今は少しでも誰かの気に留めてもらえるだけで、心なしか落ち着くことが出来た。
握りしめていた御札から手を離し、汗ばんだ手をスカートで拭う。
同じ中学で仲の良かった田所純也には、中三の時に一度だけ告白されたことがある。
あの時は高校受験で恋愛どころでは無かった私は、冗談交じりでややぶしつけに彼の申し出を断ってしまった。結果的に同じ高校に進学できたのだが、彼が再び告白してくることは無かった。
(……純也)
それとなく隣を窺う。
シャーペンを頬に当てて、つまらなさそうに教科書に向かう彼の癖は、昔から変わらない。
不思議な気分だった。命を脅かされているというのに、私は何を考えているのだろう。
高校に入ってから、純也に浮いた話は聞かなかった。
彼が私のことを今どう思っているのかは、分からない。
けれど……もしこの事件が解決して、再び落ち着いた高校生活を送ることが出来るようになったら……一度、彼とちゃんと話してみたい。
そう思った。
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