2 罠

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 私の心配を余所に、午後の授業は何ごともなく進んでいった。  放課後を迎え、私は気が抜けたように握りしめていた御札をポケットにしまう。 (これで良かった……のよね)  だが帰り支度をしていると、田所純也が訝しげな表情で声を掛けてくる。 「藤繁……そこ、どうしたんだよ?」  純也の指差す左腕を見てみると、制服の肘の辺りに血が滲んでいた。  慌てて袖口を(まく)ってみる。今朝見つけたひっかき傷が肘の上辺りまで広がっていた。赤く腫れ上がった傷口から滲む赤い血を見て、純也が眉をひそめる。 「うわ、ひどい傷じゃん。すぐ保健室に……」 「あ、ううん。大丈夫」 「大丈夫って……そんなに血が出てるのに」 「本当に平気。帰ってから包帯巻いとくから」  慌てて傷口を隠し、席を立つ。 「お、おい……」  呼び止めようとする純也を残し、急いで教室を出る。  小走りに廊下を歩きながら、何度も腕を擦る。全く痛みはないのに、傷口は今朝よりも明らかに広がっていた。 「何よ……これ」  苛立たしげに傷痕をきつく握ると、溢れた血膿がさらに制服の袖を赤く滲ませていく。昨夜フタクチに触られた時の記憶が蘇ってきて、吐き気が込み上げてくる。  気味の悪さを堪えながら校舎の玄関で靴を履き替えていると、ふと背後に人の気配を感じた。 「ひっ」  思わず声を上げて振り返る。  そこに立っていたのは……堤佳乃だった。 「堤……さん」  下駄箱を背にして身を強張らせる私に、彼女は相変わらず無表情のままぽつりと口を開く。 「大丈夫? 藤繁さん。顔が真っ青だけど」 「な、何でも……ない」  私は彼女を避けるように急いで靴を履き、玄関を飛び出す。  堤佳乃がもしフタクチだとすれば、彼女は間違いなく私の様子を窺っている。獲物をじっくりと観察して、恐怖を与え続け、そして最期になぶり殺しにするために。
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