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城石公園は、図書館に併設する広い公園だった。
入口の柵に自転車を停めた私は、息を切らして公園の中へと駆け出す。
「遥っ!」
呼びかけてみるが、黒い鳥が数羽木の枝から飛び立つのが見えただけで何の反応もない。
水の止まった噴水の周辺を巡り、樹木の覆うひと気の無い散策路へと向かう。
「遥……どこに」
湧き上がる焦燥感に苛まれながら、散策路の中でも行き止まりになっていて殆ど人の立ち寄らない奥まった所へと近付いていく。
「……遥」
物置らしき無機質なコンクリートの建物と藪に囲まれたその場所は、照明灯の明かりも届かずひっそりと静まり返っていた。
トクトクと打ち鳴らす鼓動を抑えるように、ポケットから取り出した御札を握りしめる。
「お願い……」
できるだけ物音を立てないよう、一歩ずつ建物の裏に向かう。
ザリッ……ザリッ。
真っ暗な闇に覆われたその先に……何かが居た。
腐臭に近い鼻をつく嫌な臭いが辺りに立ち込める中、『それ』は鈍色の影に揺らぎながら、確かにそこに存在していた。
「……だ、誰」
足を止め、喉の奥から必死に声を振り絞る。
まるで周囲の空気を捻じ曲げたかのように、その灰色の影は闇の中を揺らぎ続けていた。
「う……」
茫然と立ち竦む私の数メートル先に揺らぐ影が、次第にゆっくりと人の形を成していく。
ぼんやりと浮かぶ輪郭の中に現れたのは、黒い髪をした女だった。
「……ひ」
私は力なく建物の壁に寄り掛かる。逃げ出そうとしても、まったく足が動かなかった。
ザッ……ザリッ。
黒い影を身に纏った女が、少しずつ、私の方へ近付いてくる。その両手にべったりと付いた血の雫が、ぽたり、ぽたり、と地面に落ちていく。
「フ……タクチ」
赤い鮮血に濡れたその指は、昨日の夜に弥鞍神社で見たものと同じだった。
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