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「た、助け……」
一縷の望みを託して手にした御札を強く握るが、その感触はこれまでと違っていた。
開いた手の中にあったのは、真っ黒に変色してどろどろに溶け出した御札の残骸だった。
「ひ、いっ!」
慌てて手を払う。ねっとりと指に絡みついていた黒い液体が、壁に血飛沫のように飛び散る。
まるで黒い触手でも伸ばしたように周囲の景色が闇に飲み込まれていく中、鈍色の影を身に纏った女が血塗れの手を私の方へと伸ばしてくる。
前髪に隠れたその瞳の奥が……鈍い緋色に輝いていた。
「こ、来ないで……」
後ずさりしながら、ポケットに入れていたカッターナイフを取り出す。鋭利に輝く刃を目の前に突き出してみるが、フタクチはまるでそれを嘲笑うかのように距離を縮めてくる。
「く……来るなっ!」
射抜くようなその赤い視線から目を逸らし、私はやみくもにカッターの刃をフタクチ目掛けて振り下ろす。
宙に弧を描いた刃先がその顔を斜めに切り裂いた瞬間――、
フタクチの動きが止まる。
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