116人が本棚に入れています
本棚に追加
「う……あああああああっ!」
絶叫とともに崩れ落ちる私の体を後ろから支えたのは、幹二さんだった。
「落ち着くんだっ! 冥奈!」
「遥……遥っ!」
幹二さんの手を振り払ってベンチに座る遥に手を伸ばしかけた時――、
遥の体ががくりと前のめりになり、半分になった頭から何かがずるりと流れ落ちる。
べちゃ、と鈍い音を立てて地面に落ちたのは……遥の脳だった。
「い、いやあああっ! は、遥っ! 遥っ!」
「見るな、冥奈っ!」
幹二さんが、覆い被さるように私の体を抱きすくめる。
「ひ……ひっ……」
薄い朱色をした脳の上に、遥の顔から流れ出した血がぼとぼとと落ちていく。
血溜まりがベンチの周りに広がっていく中、幹二さんが私の体を引き起こす。
「ここから離れるんだ。急いで」
「そ……そんなこと。遥が……遥が」
「ここに居ると危ない。まだ奴が近くに居るかもしれん」
「で、でも遥が……」
何度も頭を横に振る私の肩をしっかりと掴み、幹二さんは言う。
「フタクチの狙いは冥奈、お前だ。奴は彼女を囮にして、お前をおびき寄せたんだ」
「じゃあ遥は……私のせいで殺されたっていうの!?」
掴みかかる私に、幹二さんは厳しい表情で告げる。
「気を確かに持つんだ、冥奈。彼女は死んだ。残念だが、お前がここに残っても何も出来ない」
「でも……でも。幹二さん……」
青褪めた私の体を、幹二さんが強く抱きしめる。
「俺が絶対にお前を殺させはしない。だから……今は俺の言うことを聞いてくれ」
「……」
半ば無理やり私の体を引き起こすと、幹二さんは公園の入口に停めた車へと向かう。
押し込めるように乗せられた助手席の窓から、街灯の下のベンチに一人うずくまっている遥の姿が見えた。
「遥……」
涙が溢れて止まらなかった。
ひと気もなく静まり返った路地を、走り出した車のヘッドライトだけが眩く照らし続けていた。
最初のコメントを投稿しよう!