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「明日から学校は再開すると連絡があったが……冥奈、どうする?」
訊ねてくる幹二さんに、私は首を横に振る。
到底今は学校に行く気にはならなかった。私が学校で茜音の怪我のことなど訊いたから……遥は死んだのだ。
「私が、遥を巻き込んで……」
憔悴しきった表情でうなだれる私の手を、幹二さんがそっと握る。
「冥奈のせいじゃない。どちらにしろ奴は誰かを狙ったんだから」
「……」
重たい沈黙が室内を包む中、七緒さんが口を開く。
「確かに、学校に行くのは控えた方が良いと思います。この件が片付くまでは」
このまま家に居ても助かるという確証は無かった。だが少なくとも、学校の誰かを巻き込むことはない。
「どうして奴は……フタクチは、私を殺さないんですか? この前だって、すぐ目の前に居たのに」
喉の奥から振り絞るように告げた私に、七緒さんは言葉を選びながら答える。
「おそらくフタクチは意図的に……あなたを精神的に追い詰めているんだと思う。周囲の人に危害を加えることで」
「狙うんなら、初めから私を襲えばいいのに! なんで何の罪もない遥が、あんな酷い目にあって殺されなくちゃ……!」
思わず声を荒げる。
テーブルの上で僅かに揺れるコーヒーの表面を見つめたまま、七緒さんは静かに告げる。
「それは……分からない。ただひとつだけ言えるのは、奴は十三年前からずっとあなたを狙っていたということだけ」
「……」
私はうなだれて唇を噛む。
七緒さんははっきりと言わなかったが、想像はついた。
奴は……フタクチは、私を弄んでいるのだ。恐怖心を植え付け絶望の底に叩き落とし、そして全てを失った獲物をじっくりと楽しみながら喰らうために。
「冥奈……」
幹二さんが心配そうな表情を浮かべ、そっと私の肩を抱く。
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