114人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
2 罠
東京の家に戻ったのは、その日の昼前だった。
部屋で学校に行く用意をしている私の所に、幹二さんがやってくる。
「今日はこのまま休んだ方が良いんじゃないか? あんなことがあった後だし、ほとんど寝てないだろ」
「幹二さんだって。ずっと運転してたのに」
「雑誌の編集者は徹夜なんて当たり前だからな。二、三日くらい寝なくたって平気さ。ただ、お前は……」
狙われている、と言いたかったのだろう。口籠る幹二さんに、私は鞄に教科書を詰め込みながら笑みを返す。
「大丈夫。家に居るよりは、人の多い所の方が安心できるから」
「しかし……」
「心配しないで。何かあったらすぐに連絡するから、そしたらすぐに駆けつけてよ」
あえて気軽な口調を装って告げる。本当はあんな凄惨な現場を見た直後に学校になど行きたくはなかった。
だがもし幹二さんと一緒に居る時に、あの化け物が現れたとしたら……。
血溜まりの中に倒れていたのが、幹二さんだとしたら……。
そう考えると、とても家の中で鬱々と過ごす気にはならなかった。少なくとも私と一緒に居なければ、幹二さんに危害が及ぶことはないはずだ。
「幹二さんも、会社でうたた寝なんてしないでよ」
「分かってるって。でも……」
「本当、大丈夫だって。七緒さんだって、すぐに東京に来るって言ってくれたんだし」
「それは……そうだが」
「でしょ。さ、着替えるんだから出てって、出てって」
渋る幹二さんの背中を押して、ドアを閉める。
「……」
幹二さんが階段を降りていく足音を確認した後、扉に寄りかかって重い息を吐く。
最初のコメントを投稿しよう!